内視鏡検査

Endoscopy

内視鏡とは、まさに“体の内側をみる”機械です。

 もともとは固い棒の先端にカメラを取り付けた“胃カメラ”が始まりでした。その後テクノロジーの進歩によって現在では先端にCCDを取り付けた“電子内視鏡”へと変貌していきました。
 小型CCDの開発によって内視鏡は小型化、高画質化がなされ、食道、胃、小腸、大腸などの消化管はもとより、血管、胆道、脳室、関節など体のあちこちを観察できるようになりました。
 当クリニックでは食道、胃、大腸といった消化管の内視鏡をおこなっています。もちろんデジタル化された最新鋭の電子内視鏡を使用しています。

早期がん

 消化管疾患の診断治療はここ十数年で大きく変貌しました。“早期がん”といえば以前はバリウムを用いた二重造影診断が中心の胃がんしか発見されませんでした。
理論上は“早期食道がん”“早期大腸がん”もあっていいのですが、現実的には見ることは稀であり、幻のがんともいわれていました。
 ところがテクノロジーの発達によって内視鏡が高画質化、高性能化されたこともあり、従来のレントゲン検査ではとても発見できなかったような微細な早期がんが食道、大腸、そして胃にも発見されるようになりました。また早期がんは手術を行わなくても内視鏡で切除できる病変も多く、治療法も内視鏡の進歩とともに大きく変化してきています。 ほとんどの早期がんは無症状のうちに発見されます。
 したがって特に腹部症状がなくとも年に一回は検査を受けることをお勧めします。当クリニックでは鎮静剤を用いて検査が楽に受けられるように工夫しています。また検査の前後は各種モニターを用いて患者さんの全身状態を把握していますので、安全に検査が受けられます。

バリウムとカメラはどっち?

 これはよく尋ねられる質問です。内視鏡が進歩するにつれて、内視鏡検査に積極的に取り組む病院の症例数はどんどん増えてきました。一方バリウムを用いたレントゲン検査はこの10数年間目立った進歩がなかったために、内視鏡検査数と反比例するように全国どこの病院でも減少しています。現在ではまず内視鏡検査を受け、病変があったときに精密検査としてレントゲン検査を施行するという病院が多いと思います。



 但し内視鏡検査にも欠点があります。それは術者が病変に気が付かなかった場合、見過ごされる可能性があるのです。もちろん術者の経験年数や術者が何処の施設で修練したかなど“腕”の差はあります。消化器の病気は血液検査のように数値化されていないため、術者の技量にある程度依存するものですが、人間が行うことに完璧ということは決してないからです。一方レントゲン検査は、術者が病変に気が付いていなくてもフィルムにはちゃんと写っているということがときにあります。


そのために一枚の写真を複数の医師が読影する、いわゆる“ダブルチェック”が重要になってきます。また最近はバリウムの濃度を濃くして鮮明な画像を撮る工夫をしている病院、検診施設もあります。私は毎週よその健診施設で胃のレントゲン写真の読影を担当していますが、ここの放射線技師さんが撮影したフィルムはなかなかの出来栄えです。こちらもうかうかしていられないという気になります。さらに胃の集団検診の写真も以前とは比較にならないほど質が向上してきています。 以上のような理由からバリウムとカメラはどちらがいいとは一概に言いきれません。しかしどんな理由があるにせよ、病変を見逃された患者さんはたまったものではありません。そのことを肝に銘じて毎日の診療をおこなっています。

下痢でお困りの方

 過敏性腸炎などと診断されていませんか?
Collagenous colitisという病気があります。おそらく消化器病専門医でも知らないドクターが多いかと思います。まだ適当な日本語による病名がないのです。私が2001年に日本大腸肛門病学会雑誌より総説原稿を依頼されたときの日本語タイトルは”膠原繊維性大腸炎“となっていました。 この病気は大腸粘膜の下に厚い(といっても0.01mm程度ですが)膠原繊維が増生することによって大腸での水分吸収がブロックされ、水様性下痢を引き起こす病気です。原因はまだ不明ですが、免疫性疾患との関連や薬の副作用などが考えられています。中年以降の女性に多く(男女比1:9)慢性に経過し、大腸内視鏡検査で異常がみつかりません。
 粘膜の組織を採取し、それを顕微鏡でみて初めて診断されるというのがこの病気の概要です。この病気を世界で最初に発見したのはスウェーデンのリンドストレムという病理学者で、1976年のことです。その後欧米では既に数百例の報告があり、今ではあまり珍しい病気ではなくなりました。
 さてこのリンドストレム先生は私がスウェーデンで勤務したルンド大学マルメ病院の病理部の教授でした。私が勤務した頃は既に退官しておられましたが、このような因縁もありマルメ病院にはこの病気の患者さんが少なからず通院しており、この患者さんの大腸内視鏡検査を私が依頼されることがしばしばありました。欧米では内視鏡をしても異常が認められないといわれていましたが、日本流の丁寧な観察をおこなうとそうでもないことがわかってきたのです。どのような内視鏡所見なのかは専門的になり過ぎますのでここでは割愛しますが、もし興味がある方は以下の論文、著書などを読んでいただければ幸いです。

・ Sato S, Benoni C, Toth E, et al: Chromoendoscopic appearance of collagenous colitis- a case report using indigo carmine. Endoscopy(7)30, S80-81, 1997.
・ 佐藤 茂、Frans Thomas Fork : Collagenous colitis. 胃と腸アトラスII, 494-495, 医学書院、2001.
・ 佐藤 茂、松井敏幸、八尾恒良:特集 主題II 最近話題になっている腸の炎症性疾患(IBDを除く)7.膠原繊維性大腸炎とリンパ球性大腸炎. 日本大腸肛門病学会雑誌, 54(10), 960-964, 2001.
・ Sato S, Matsui T, Tsuda, et al: Endoscopic abnormalities in a Japanese patient with collagenous colitis. J Gastroenterol 38(8), 812-813, 2003.
・ 佐藤 茂 Collagenous colitis. 内視鏡診断のプロセスと疾患別内視鏡像 日本メディカルセンター、2005.
・ 佐藤 茂 Collagenous colitis. 消化器疾患診療実践ガイド、文光堂、2005 (Japanese edition)

 近年、我が国でもこの病気の概念が少しずつ認識されるようになり、2009年には雑誌『胃と腸』にて特集が組まれるようになりました。しかし、広く一般の医師にまでにはまだまだ浸透していないようです。なかには大腸内視鏡まで受けていても異常を指摘されず、ストレスが原因といわれ「過敏性大腸炎」あるいは「過敏性腸症候群」と診断されている患者さんがいらっしゃるかもしれません。